遺伝子検査を活用したがん治療が注目を集め始めている。2016年には、治療に行き詰っていた50代の女性がん患者が「オンコプライム」という遺伝子検査を受けたことで、それ以前は選択肢になかった薬を選ぶきっかけになり、がんに対して効果が表れた。担当した医師は「がんは遺伝子を解析してから薬を選ぶ。これからはそれが当たり前」と話す。
この例のように、遺伝子検査はがん治療において有益であるケースが多いが、これまではコストの高さが壁となりなかなか普及してこなかった。例えば、2011年に膵臓がんで亡くなったアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が受けた遺伝子検査は、当時の価格で10万ドル(約1100万円)を超えていた。
しかし、遺伝子の解析速度が年々速くなったことなどから、コストも徐々に低下していっている。AIなどの新しい技術も取り入れられ始め、現在は遺伝子を読むだけなら1,000ドル(約11万円)、判定費用を含めてもトータルで50万~100万円で遺伝子検査が可能だという。日本では政府が2018年度末までに、遺伝子検査を保険適用にする方針で、保険適用となれば患者負担は数万円程度になる見込みだ。
一方、企業にとっては大きなビジネスチャンスだと言える。現在がん治療における遺伝子検査ビジネスをリードしているのは血液検査機器大手のシスメックスだ。遺伝子検査を保険適用で初めて実施するのではないかと言われている。海外企業では2015年にアメリカで12万人以上のがん解析実績を誇るファンデーション・メディシンを買収したロシュが有力企業と目されている。ロシュグループには中外製薬も入っているため、日本でも攻勢に出る可能性が高い。
医療関連企業だけでなく、異業種から参入する動きも出てきている。コニカミノルタは2017年7月にアメリカのがん遺伝子診断企業アンブリー・ジェネティクスを産業革新機構と共同で買収すると発表した。他にも、科学メーカーのデンカや立ハイテクノロジーズが参入に向けた動きを始めている。
日本における死因の第一位はがん(2017年、厚生労働省「人口動態統計」より)であり、誰でもがんにかかる可能性がある。当然ながらがんにかからないように普段から心がけることが重要だが、万が一がんになってしまった場合に備えて、遺伝子検査を活用したがん治療ビジネスの動向に注目しておくことは有益だと言えそうだ。