南米2

ラテンアメリカの銀行は、金融危機にどのように対応したのか?

ラテンアメリカの経済は、需要と多くの世界経済からの資本の減少からの影響を受けました。クロスボーダー(国際間)の貿易は、大きく落ち込んでいます。例えば、主要な資源のシッピングコストのBaltic Exchange Dry Index(BDI)*1は、2008年5月から2008年11月まで94%落ち込みました。米国の個人消費の成長は、2008年の下半期にマイナスに転じ、主要な輸出(オイル、銅、コーヒー、そして大豆)の価格は、20%から60%減少しました。

2009年第一四半期、1年前に比べて、輸出量に関しては、ブラジルとコロンビアでは、9%の下落、そしてメキシコでは、15%の下落です。海外からの直接投資(2008年)は、メキシコでは5分の1下落し、ブラジルでは、50%下落しました。海外からの必要性が、減少した結果、(メキシコやブラジルそしてコロンビアでは)工業生産が減少し、失業率が増し、自国での需要も低下しました(これらの3つの国での2009年2月の消費マインドは、前年同月比比較で20%減です)。2009年、これらの国のGDPは、メキシコでは5-9%、コロンビアでは1.8%、そしてブラジルでは1.2%縮小すると見られています。メキシコの経済は特に弱く、それは、メキシコの輸出産業は、米国への輸出(全体の80%を占める)に頼っているからです。

ラテンアメリカの政府は、貸し出し金利を減らしたり、歳出を増やすことによって、経済の活性化を図ろうとしています、多くの国が負債を埋めるために、国債の発行を増やしています。通貨は2008年秋の大下落よりは、いささか回復しましたが、1年前の水準を20−30%下回っています。株式市場は部分的に回復しましたが、メキシコとブラジルでは毎年25%下落しています。ただ、コロンビアでは、ほぼ回復しています。

ラテンアメリカにおける工業生産と消費者消費の下落は、銀行のローンの成長を遅くしました。消費者に対する貸し出しでは、ここ数年貸し出しが拡大していたものの、特にメキシコとコロンビアにおいて、大きな下落が生じています。メキシコでは、ローン件数は2006年、2007年には29%増だったものが、2008年には−1%になり、コロンビアでは、38%増から15%増に減少しました。

不良債権は、金融危機の前からも多かったです。というのも、既存顧客の借り入れが、ラテンアメリカにおける消費者に対する貸し出しの急増に貢献していたからです。今は、不況の影響で、失業率が高くなり、その結果不良債権がますます多くなっています。2008年末にはブラジル、コロンビア、メキシコにおける消費者ローン全体の8%が不良債権化し、メキシコとブラジルのクレジットカード・ローンの不良債権化が、それぞれ11%と28%となっています。消費者ローンの不良債権化の増加が、負債全体の不良債権化を引き起こしています。

2008年に銀行業の株主資本利益率(ROE)は、メキシコでは20%から13%にまで下がり、ブラジルでは28%から19%に下がりました。しかし、コロンビアのROEセクターは、安定しています。メキシコとブラジルの銀行では、金利収入、料金および手数料収入が大幅に減少しています。それとは対照的にコロンビアの銀行は、金利(特にクレジットカードとコーポレートローンの金利)を上げROEを安定に保っています。

それなのに、ラテンアメリカの銀行は多く資本を持ち、流動性が高いです。というのも、1980年代、1990年代のラテンアメリカにおける金融危機の後、ラテンアメリカの銀行は、銀行の規約に国際基準を導入し、保守的なスタンスでいたのが、その理由の一つだからです。

大きな銀行は危機に直面しても回復力がある一方で、小さな銀行やノンバンクは、より高価で難しい資本市場基金に依存していたため、ラテンアメリカで苦しんでいました。メキシコでは、SOFOLとかSOFOMと呼ばれるノンバンクの金融の会社の全体の資産が2008年は28%減少しました。

ラテンアメリカの銀行業における不況の影響を図るためには、2つのマクロ経済学のシナリオから、ローンの増加、マージン、リスクの対価、銀行の運用コスト、そして経済的利益を考えなくてはなりません。

その2つのシナリオの1つは、2009年の第三四半期から第四四半期にかけて起こった緩やかな不況からの正常な回復で、経済の回復が2010年から始まりました。二つ目は、1、2年続いた緩やかな不況からのゆっくりとした回復で、2011年から始まった経済成長です。

これらの分析における貸付とは、消費者金融(クレジットカードを含む)、小規模金融、抵当権、コーポレートローンを含んでいます。

正常な回復のシナリオでは、ゆっくりとした貸付増加を導き、2007年の経済成長率を2012年に戻します。ゆっくりとした回復のシナリオでは、2009年は貸付増加は殆どなく−実際メキシコではそうでした−2012年の経済成長率は2007年の三分の一にすぎません。2009年第一四半期の実際の貸付増は、ゆっくりとした回復のシナリオに沿ったものでした(表Exihibit3参照)。

*1 Baltic Exchange Dry Index(BDI):バルチック海運指数とは、イギリスのバルチック海運取引所(The Baltic Exchange)が算出するばら積み船運賃の総合指数のこと。

 

我々は、自分達のシナリオにおいて巨大銀行で最も悪いパフォーマンスの銀行に何が起こるかを、それぞれの国においてストレス・テスト*1をしました。それぞれの国において2008年度最も低いROEを持つ銀行を選びました。その選択には6つの大きい金融組織を含み、州立や最近の合併に関係する銀行を除いています。上にある通常の、そして緩やかな回復があると、仮定して、将来のROEと資本還元率を予測しました(表:Exhibit7参照)。

両方のシナリオにおいて、3つ全ての国の銀行は、利益を生み、現地基準の資本還元率の条件(コロンビア9%、メキシコ10%、ブラジル11%)と、国際基準の資本還元率(バーゼル国際銀行協定による8%基準)の条件2つを上回ることができます。しかし、銀行のパフォーマンスは、貸付の増加が緩やかに進むのに準備金比率が高騰するため下落するでしょう。

ストレス・テストに予測では、2008年にメキシコの銀行は、準備金を蓄えることに重きをおいたおかげで、2009年は他の南米の国の銀行よりもパフォーマンスが良くなっています。実際のブラジルとコロンビアの銀行は、2009年第一四半期、予測よりもパフォーマンスが良く、メキシコの銀行のパフォーマンスは、2009年第一四半期、予想よりも若干悪くなっています。

 


シナリオ毎のROE予測
経済の悪化は、ラテンアメリカの銀行に影響を与えています。ローンの需要(ローンを受けられる人)が減り、個人でも企業でも借り手の質(返済能力等)も下がっています。そして、キャピタルマーケットにおける貸し出しにかかるコストは増えています。我々はラテンアメリカの銀行の収入の成長は下落する見ていますが、それでもラテンアメリカの銀行は利益が出て、資本還元率は高いと見ています。

 

金融危機に対応して、銀行は下記3つの部門で動きを見せています(リスクヘッジをしようとしています)。

銀行経営
リスクマネジメント
コーポレートファイナンス及び戦略

銀行は収入の増加が減っていることに対応して、経営コストを削減し、選択的に利息を上げたりサービスチャージを上げたりしています。多くの銀行は、高いリスクを回避するために顧客の信用情報をより厳格に審査するようになり、既存の顧客には、ローンの借り換えを促しています。

資本を守るため、新支店の設置プランを延期した銀行もあります。一方、キャピタルマーケットで資金を得るコストは高くなり、銀行は預金を集めるのに必死です。銀行の中にはM&Aの機会について調査するのに、彼らの競争相手の沈滞している市場評定価格を利用しているものもあります。

*1ストレス・テスト大幅な価格変動などを想定し、その回避策やポートフォリオの損失額を予測しておくこと。

資料:マッキンゼー・リポート 2009年7月
Luis Andrade:ボゴタオフィス役員
Sarah Huber:コンサルタント(メキシコ市オフィス)
Antonio Martinez:文責

ルイス・アンドレードは、マッキンゼーのボゴタオフィスの役員です。サラ フーバー、メキシコシティのオフィスのコンサルタントです。全文責は、アントニオ・マーティンズにあります。

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